不定期俺日記ver.2

何というか適当に。



『昨今どうよ』

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  • 2008年02月13日去年

  • 藤原祐さんのレジンキャストミルクが終了した際、読んですぐに思いついたアイデアを二次創作にしていたら言い訳が多くなるようなものが出来たのですが、ええ、結論だけ言うと御本人にお見せしましたですよ?
    キャラが完全にこっちルールになってますが、まあ、自分の中ではこんな感じの日常やってんじゃないだろうかとか、そんな自由で一つ。二次創作! 二次創作!(魔法の呪文か)

    ※追記
    おわー、レジンキャストミルクをレジンミルクキャストとか書いてましたよ自分。
    朝見て自分でビックリしたというか。
    何故に本を横に置いて間違うか(あ、レジミルも置いてたからか……)。
    ともあれ誠に申し訳御座いません。

    では開始ー。
    -------------------------------

    rem01.gif

    ●『れみじる』




           ●
     晶が目覚めると、そこは昼の台所だった。
     ……台所? キッチンと言えキッチンと。
     いつものように訂正癖で訂正して、晶は状況を確認する。
     ベッドはない。目の前にはテーブル、尻の下には椅子。椅子の下には空気。空気の下には床。何もおかしいところはない。いつも通り自分は厳密だ。外からは夏の記号として蝉の声が聞こえる。
     ……だけど、何故台所で。
     ああそうだ。
     昨夜、硝子の夕食が遅れに遅れて、台所で待っていたところ、電話があったのだった。電話の向こうはどっかでよろしく世界の破滅やってる両親で、
    『何だお前、腹が減ったときはタバコを食うんだ。──意外だろう』
     血圧が上がりかけたので黙っていると、受話器の向こうから、ちゅぱっちゅぱっ、というちゅぱ系の音が聞こえてきたので結局血圧が超上がって気分が悪くなったのだった。
     つまりテーブルに突っ伏していたのは、寝ていたのではなく、
     ……空腹時に血圧上げたせいで気絶か。
     さて、と傍らを見れば、電話の受話器、子機がテーブルにおいてある。
     受話器の液晶を見ると、
     ……通話中。
     思わず視線を中央に定めてしまった晶が、ゆっくりと受話器に耳をつけると、昨日と同じ擬音がしたので子機をつかんで親機に叩きつけるふりをした。壊れるとまた面倒だから。
     ともあれ夏だというのに昼から疲れた。風呂も入っていない。
    「不健康だ……」
     よく考えたら一晩中、目を伏せている横で父親のちゅぱ音を聞かされていたのだが、そんな経験をしている高校生は世界を探しても自分しかいまい。他にいてもどうしようもないし、そいつが目の前に立って肩をすぼめて口を尖らせながら上目遣いでこちらを見上げる小僧だったら僕は「弟よ」と言って抱きしめられない。
     いかん。ちょっと錯乱気味だ。
     今確かなのは、父親達が通話料の無い世界にいるということと、
    「夕食」
     いや、もう既に昼か。ノット夕食。
     と、音がした。

     かんかんかんかんかんかんかんかん

     何だこの音は、いや声か、擬音か。どうでもいい。とにかく後ろから近づいてくるのは、
    「硝子か」
     振り向くが、誰もいない。
    「…………」
     壁際にある電話の親機が着信を告げる液晶を光らせた。
    『通話先:”ちゅぱ”様より』
     電話線を引っこ抜いた。
     そして、ふう、と晶が一息つくと、

     かんかんかんかんかんかんかんかん

     また、背後から音が響いてきた。
     ……待て。
    「硝子?」
     振り向くが、いない。あるのは照明の消えたキッチンの食器棚だけだ。
     だが、

     かんかんかんかんかんかんかんかん

    「おい、硝子」
     振り向くが、いなくて、

     かんかんかんかんかんかんかんかん
     かんかんかんかんかんかんかんかん

     音は大きくなってきて、晶は頬のあたりを硬くしながら、
    「お、おい硝子──」
     直後。
    「言ってみただけです。いろいろ準備があったので」
     右の耳元で硝子の声が聞こえた。
     晶が思わずのけぞって右を確認すると、そこにエプロン姿の硝子がいた。硝子はさえ箸二本をそれぞれの手にグーで握り、
    「では、昼食です」
    「え!? い、今さっきのセルフスルー!?」
    「悪い知らせとよくない知らせ、どちらから聞きたいですか」
    「まず僕の話を聞けよ!!」
     言うと、硝子は視線をこちらから背けた。彼女は、下を見て、ふう、と一息つきそうな口調で、
    「毎度毎度、聞いてないのはどちらですか」
     思い切り指さしてやりたい気分になったが、晶は堪えた。よく考えたら、自分の堪え度すなわちSAN値は硝子が来てからとてつもなく上がっているのではないかと思いながら。
     そして晶は、ゆっくりと息を吸い、
    「僕が、硝子の話を聞いてないって?」
    「はい」
     即答された。更に硝子は無表情にこちらを見上げ、
    「昨夜、夕食前に私はマスターに”今日は私の望むもので宜しいでしょうか”と聞いたのですが、マスターは耳元に受話器を当ててテーブルに倒れたままちゅぱっちゅぱっと妙な擬音を」
    「言ってねえよってかネタ引っ張るなよ!!」
    「では昼食です」
     ぶった切られた晶は、腹の底あたりに熱のようなものを感じたが、堪えておいた。
     堪え、三秒してから、努めて冷静な顔で、
    「昼食は、何だ?」
    「はい、急ぎで作っているので手伝っていただけますか? 私、鍋の方を始末しますのでマスターは御飯の方を」
     了解、と晶は体を動かす。座って気を失っていたため、足のあたりが重い。だがまあ、これでいろいろ気分もリセットだ。
     晶は自分の茶碗を左に構え、右に杓文字を持って、電子ジャーを開ける。
     電子ジャーの釜の中に黄色いものが出来ていた。
     茶碗左手の晶は、右の杓文字を黄色に柄まで突き刺し、そこで始めて気づいた。
     ……うちの米は──。
     黄色ではない。
    「────」
     初めて知ったが、十センチ厚のプリンは杓文字を柔らかく受け止める。
     む、とも、ぬ、とも言う感触が右手に伝わり、晶はこう思った。
     ……待て。
     こういうとき、どういう顔をしていいか、晶は知らない。どういう反応をしていいかも。
     ……えぅ?
     待て。これは昼食だ。御飯だ。白米の筈だった。今は黄色い。杓文字も持っている。電子ジャーだ。しかしプリンだ。では左手の茶碗はどこへ行けばいい。茶碗はプリンを受け止めれるか? これは哲学的な問題だ。一体僕はどうしたら! どうしたら!!
    「……マスター、何をさっきからバレリーナの白鳥みたいなポーズで固まってるのですか」
    「お」
     お前、と言おうとしたが、右手に伝わる杓文字越しのプリンの感触が晶を捕らえて放さない。
     ゆえに晶はかなり噛んで、
    「お、おまおま、おまっ、ぷ、プリ、おま、ジャーって、ジャーって」
    「了解です」
     硝子は片手を軽く上げ、電話機に近づき、電話線を入れ、
    「あ、ちゅぱ様ですか、マスターが凄いことに」
    「お前なあ!!」
     親に告げ口かよ! と思ったが、それより先に言うことがある。
    「何だこれは!!」
     顎で電子ジャーの中を示すと、硝子は、
    「────」
     はっとした顔でこちらを見た。
     その後で硝子は、こちらの右手に視線を移し、
    「何故杓文字を差したのですマスター!」
    「え?」
     変化球に疑問詞を返すと、硝子が目を半目にした。全く、と前置きまでされて、
    「釜ごと大皿にひっくり返してプッチンするのが常識なのに、解らない人ですね」
    「解らねえ──!! 大体釜の底にプッチン棒ついてねえよ!!」
    「穴が開いてないなら開ければ良いではないですか」
     どうしてこの女はたまにひどく男らしいことを言い出すのだろうか。
     はあ、と晶はため息一つ。杓文字を抜こうとすると、
    「あ、抜いてはいけません! 抜いたところからカラメルが漏れます! ──ああ漏れてしまいました。まるで砂漠からわき出る石油のように……!」
    「悪いの僕か!? 僕か!?」
    「そうやって結論を急ぎたがるのはマスターの悪い癖ではないでしょうか」
    「悪くないってフォローしろよ!!」
     ともあれ晶は、杓文字から手を離した。杓文字は別れを告げるように揺れていて、硝子が手を振り返していたが気にしない。プリンに感情も人格もないからだ。だから晶は、気を取り直すように、
    「さて」
     言ったなり、硝子の声が来た。
    「ではそちら、切った野菜を皿によろしくお願いします」
     野菜? と晶が視線を向ければ、流しの近くにはキュウリやトマトをタッパに切ったものがある。色の取り合わせと皿、そして夏という季節から連想できるのは、
    「冷やし中華か……」
     やれやれ、と晶は一度手を洗い、皿二つに野菜類を盛りつけていく。そうやって彩りが器に並べられていくと、今さっき見た黄色い固まりが記憶から忘れられていく。
     冷やし中華。
     夏の風物詩だ。どこで食っても同じ味がするが、ならば家で食うのは高級食堂で食うのと同じだろうか。
     まあいい。今は盛りつけに集中しろ。
     ……まずはキュウリ──。
     そしてトマト、ハム、茹でたモヤシ、更に黄色い錦糸プリン──。
    「ぬおおおお握った! 握った! 指の間からニュって出たぞ!! うわああああ!!」
    「……全く、何をトラップ一家のようなトラップ掛かった系騒ぎをしているのですか」
    「それよかどこの誰だよ冷やし中華じゃなくて冷やしスイーツやろうとしてるのは!」
    「違います。それは広義の冷やし中華です」
    「卵の代わりにプリン千切りにしねえよ普通!」
     言うと、硝子が首をかしげた。
    「何が問題有るのでしょうか。──卵はプリンから出来ているのに」
    「逆だよ!!」
    「違います」
     硝子が断言した。
    「卵を割っても中からプリンは出てきませんが、鶏にプリンを食べさせたら卵が生まれます。つまり、卵はプリンから出来ています」
    「────」
     思わず息を吸い、鼻の下を思い切り横に伸ばしてしまった晶だったが、
    「ひゃ、百歩譲ろう」
    「有り難う御座います」
     言う硝子に向かって、いいか? と晶は前置きし、あのな? と付け加えまでして、
    「じゃあ、じゃあさ」
     言った。
    「同じ理論で、鶏に親子丼食わせて共食いさせたらどうなる? それでも卵出るぞ?」
    「何を非常識な。そんなものチキンウンコにしかなりません。──大丈夫ですか?」
    「僕か?! 僕が駄目なのか!?」
    「それよりどいてください。これから麺を用意しますので」
     と、硝子がやってきた。
     硝子は晶が用意した皿の前に立つと、トコロテンの突き器を持ち出し、右に構え、
    「────」
     黄色いトコロテン状の軟体が冷やし中華予定の皿にくねった。
     硝子は、ふう、と額に浮いた汗を拭い、
    「今日は麺のコシがいいですね」
    「どう見てもさっき僕が握ったのと同じだよ!!」
    「……握って解らなかったのですか、板前向きではないと判断できます」
     晶は背を向けた。
     ……落ち着け。
     怒ったら負けだ。怒っても向こうには通じない。落ち着け。クールになるんだ晶。
     クールになるため、晶は傍らにあった冷蔵庫を開け、頭をつっこんだ。
     冷える。良い感じだ。ついでに中身も確認しよう。まさか器に入ったプリンばかりで中が占領されていると言うことはあるまいが。
     晶は前を見た。冷蔵庫の中は、日頃の硝子の管理がいいのか、何もなかった。四段有る棚には何も並んでいない。ただ、黄色いだけだ。
    「──待て」
     目の前にある空間に手を伸ばすと、冷蔵庫の四段空間を占める黄色いものに、その手首までが沈み込んだ。
     ずぶり、という擬音が口から出そうな感触と、柔らかさと湿りと抵抗に、晶は総毛立ち、
    「ぬ」
     ほ、と、妙な息が喉を超えて伸ばした鼻の下から出た。









    rem02.gif


     ……くそ。
     よく解らないが、晶はこう思った。
     ……してやられた!!
     膝を打つ、という表現も可能だろう。
     器に入っていると思っていたプリンが、まさか冷蔵庫に満ちているとは。
     一瞬、間違いが大きすぎて気づかなかった。更には触れて本当かどうかを確かめようとしてしまうとは。
     反省だ。
     ……だけどコレ、重力無視してないか? どうやってこぼさず作ったんだ?
     ふと視線を落とすと、冷蔵庫の下から手前側の床に、何かを引きずった跡がある。
     誰かが、冷蔵庫を尻餅つかせるように倒し、また起こした跡だ。
     晶は目の前の垂直に立ったプリン面を見て、床の跡を見て、
    「────」
     晶は息を整え、ゆっくりと冷蔵庫から手を抜いた。
     表面の硬い部分に、手についたものをなすりつけ、更に息をつく。
    「ふ」
     喉が渇いていて、軽い咳が出た。
     ……落ち着け。
     右手を冷蔵庫のドアの縁にかけ、ドアの陰に隠れるようにする。
     今、この不安定な状態を硝子に見せるわけにはいかない。
     ……ここで狼狽えを見せたら硝子の思うつぼだ。
     いや、向こうは何も考えていないかもしれないが、状況的に見てそういうことだ。
     だから晶は追加の息をつき、ふと気づいた。
     ドアの内側、飲み物がある。
    「…………」
     喉は渇いている。
     さっきから微妙に甘い匂いばかりで、少し呪われた気分にもなっている。
     何か飲もう、と思い、
     ……待て。
     待て、か。
     良い言葉だ。犬に言うならステイ。
     今日、この言葉を何度思ったことか。そして幾度無駄に終わったことか。
     しかし、晶は首を小さく横に振り、
     ……これからの僕は違う。
     受験勉強に失敗するための格言のようだと思いつつ、晶はドア内側のストッカーを見た。
     今、何か飲みたいと思うが、
     ……まず、紙パックは危険だ。
     中に仕込まれている危険性がある。外から中身の視認も出来ない。特に牛乳は駄目だ。何故ならば、牛にプリンを食わせても牛乳が出るからだ。
     ならば安全なのは調味料と、透明な瓶などに入ったものだ。
     ……瓶。
     ”オレンジジュース”、というラベルに、つい反射的に手を伸ばしそうになり、晶はその衝動を抑え込んだ。
     ……待て。
     待つんだ晶。ステイ、ステイ僕! よーしよしよし。
     いいか、ひょっとしたら、これはオレンジ色に見えるだけで、別のものかもしれない。
     そうだ。
     ……マンゴーだ!
     そう、そうだった。マンゴープリンはオレンジジュースに似た色だ! ああそうだそうだ危険だ! 何故ならばマンゴーの木の下にプリンを埋めてもマンゴーの実がなるからな! ああそうだ、だとするとこの横にある瓶の中身、僕が昨夜作ったカフェオレも、カフェオレプリンに変えられている可能性がある! 何故ならば僕がプリンを食ったら尻からカフェオレが──、出ねえよ!
    「────」
     と、晶はカフェオレの横に視線を向けた。
     そこにあるのは、プラスチックの瓶に入った麦茶だった。
     夏場だから常備しているもので、向こうから硝子の声も、
    「そろそろ出来ますので、麦茶をお願いします」
    「あ、ああ」
     そうだよな、と、意味もない言葉を晶は思った。麦茶は無害だ。黄色くない。少なくとも乳製品系の色をしていない。透明度もある。
     そして今、硝子は食事としてプリンを仕込んでいるが、飲み物は必要だろう。
     それに甘いものばかりでは箸休めも必要だ。紅茶もコーヒーもないのだから、
     ……麦茶か。
     行儀が悪い、と思いつつ、落ち着きの一口として晶は器を開け、麦茶を喉にあおった。
    「────」
     何か、違う味がした。
     定番は、やはり麺つゆだろう。一気に飲めば徴兵検査も免れるというアレだ。
     だが、この麦茶は違う。
     ……どう違うかと言えば、
    「あ、それ、カラメルソースですが」
     晶は吹いた。
     あ、いかん、鼻からカラメル。これは人類として前代未聞な。
    「マスター……」
     硝子の声が聞こえる。しかしそれは、何故か緩やかな感情のこもった声で、
    「まさかその超ラージプリンにつけるカラメルを、口に含んでつけていただけるとは。すなわち間接ソース。──これまさしくプリンが結んだ愛と解釈して宜しいのでしょうか」
    「直接ソースって何だよ! ってか麦茶どこだよ!?」
     晶が振り向き問いかけると、硝子が首をかしげていた。
    「麦茶なら、手に持っているではありませんか」
    「違え──! これカラメルだろ!? 砂糖だろ!? 飲んでみろよ!」
    「そんな、ガブ飲みしたら糖尿になりますよ」
    「言ってること繋げろよ!! 麦茶飲んだら糖尿になるかフツー!! 大体何で飲み物としてカラメルが定義されてるんだ!」
     カラメルの入ったプラスチック容器を振りながら叫ぶと、硝子が更に首をかしげた。
     彼女は、無表情なままに、
    「甘いプリンを頂いたら、更に甘いカラメルで箸休めするのは食事の基本です」
    「カラメルとプリンって、一緒のものじゃないのか?」
     思わず尋ねると、硝子がわずかにのけぞった。眉をひそめ、一歩を後じさり、
    「その二つは表裏一体。生まれ有れば滅び有るように個々は寄り添いながらしかし同体とはならないものですよマスター! それなのに一体何を……」
    「え? あ、ちょ」
    「良いですかマスター、例えるなら私がプリンでマスターがカラメルです」
    「お前より僕の方が糖度高いのかよ!?」
    「つまりそういうことです」
    「切った! 切ったなこの女!!」
     まあまあ、と硝子はこちらを手で制した。
     そして硝子は、
    「とりあえず落ち着かれるのが良いかと」
     言って、急須を取りだした。茶葉の袋の中身を入れ、ポットから急須に湯を注ぐとろこまでを晶は見る。
     ……茶か。
     茶葉、急須、何よりも今、お湯を見た。
     ならば黄色いものや黒いものが差し挟まれる余地はない。
     ……大丈夫だ。
     視認は何にも勝る安全確認だ。
     ゆえに、ややあってから差し出された湯飲みを晶は受け取り、温度を確かめながら呷った。
     とろけるプリンであった。
    「────」
     想像していた緑の飲み物とは違う吸引力を要求され、晶はとまどい、結果として喉に詰めた。
     真上を向き、晶は数秒。そばに硝子がやってくる足音が聞こえ、
    「マスター?」
     うるさい。ちょっと今、今は駄目だ。後で叱る。超叱る。
     ともあれ晶は上を向いたまま、垂直に三度ほどジャンプして、喉にあったものを胃に流し込んだ。その後で、
    「何だ今のは!!」
    「お茶の紙パックに移し替えておいた粉末式のとろけるプリンですが、それが何か?」
    「あ、あのな、喉に詰まって死ぬところだったぞ!」
    「いけませんねそれは。これを飲んで流し込んでください」
    「カラメル出すなあ──!!」
     あ、と晶は気づいた。今、始めて先制防衛に成功した、と。
     ……いける!
     勢いづいた晶は、完全に気分を一新しようと考えた。
     リセット、そう、リセットだ。
     だから、現状を断ち切るように、晶はこういった。
    「──風呂に入る!!」

        ●
     晶が早い風呂に入ったのを確認してから、硝子は次の食事の準備に掛かる。
     時計を見る。
     先ほどまで昼過ぎだったのに、既に時刻は五時を過ぎている。
     時間が過ぎるのが早い。だが、硝子は時計から目を外し、
    「────」
     小さく笑った。
    「いつ、気づくことでしょうか」
     と、風呂場から戸を開ける音と足音が響いた。つながっている洗面所のドアの向こうから晶の声が、
    「ふ、風呂釜の──」
    「先ほど、飛び込む音がしましたが、──そんなにプリンが好きだったのですか」
    「どうやって湯を沸かすんだよ!!」
    「そのままどうぞ。──焼きプリンになりますから」
    「製法違うぞ……」
     つきあってくれるマスターは心優しいと硝子は思う。
     そして晶が戻り、しばらくして、家の給湯システムがオンになるのを硝子は見た。風呂釜が使えないからシャワーを使うらしい。
     だが数秒して、先ほどより急いだ音が風呂の方から聞こえ、
    「しょ、硝子! シャワーから熱いカラメルが! カラメルが!!」
    「黄色人種のマスターが頭からカラメルを浴びればそれはまさしくプリンのような……」
    「語るなよ! 火傷して死んだらどうする気だよ!!」
    「そうやって話すことも出来ないと思いますが」
     まだ気づかない、と、硝子はまた小さく笑う。
     いつになったら気づくことか。
     洗面所からは水が出る。それにマスターが気づくまであと二十分くらい。そしてキッチンに戻ってきて時計を見て「夕食はまだか」というには三十分。
     そして電話が鳴るまで五十分。
     いつになったら気づくことか。
     どうなのだろう。
     もう気づいているのかもしれないけれど。
    「マスターはお優しいので」
     つぶやいたとき、洗面所から声が聞こえた。
    「硝子」
    「何でしょうか。リンスは沖縄産、シャンプーは石垣産の砂糖ですが。洗面所の歯磨き粉は練りプリンです」
    「そうじゃなくてさ。──洗面所の蛇口から水が出たぞ!!」
    「出て当然なのを、何を西部で金塊見つけたヤンキーのような声で」
    「うわ、こ、これ、水だよな?! 透明なプリンじゃないよな!?」
     透明なカラメルだったらビックリするんでしょうか。
     ともあれ、彼女は小さくつぶやく。
    「いつ気づかれて、終わるでしょうか」
     気づかれたら残念だけど、終わりにしよう。
     わがままだと解っているから、自分の心の逃げ場としての譲歩もしている。だから、幾度も問うているのだ。まずは、
    「悪い知らせとよくない知らせ、どちらから聞きたいですか」
     それは、知らせたらこの時間が終わってしまう私に対して残念な知らせ。
     そして、これから一時間後くらいに、こう問うのだ。
    「今日は私の望むもので宜しいでしょうか、と」
     ものとは、別に食事のことだけではない。
     私達にとっては、世界だってもの扱いなのだから。
     気づかれているのだろうか、いないのだろうか。
     それとも、聞き方が悪いのだろうか。
    rem03.gif


                               (了)

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